■スキームによって許可の扱いが変わる
株式譲渡の場合、許可を持っている会社そのものは変わらないため、許可はそのまま残ります。役員や株主が変わった場合の変更届は必要ですが、取り直しは不要です。
一方、事業譲渡・合併・会社分割の場合、かつては許可を取り直す必要があり、新しい許可が下りるまで工事を受注できない「空白期間」が生じていました。2020年10月の建設業法改正により、事前に認可を受ければ許可を承継できる制度ができ、この問題は解消されています。小規模な建設会社のM&Aでは株式譲渡が選ばれることが多い一方、簿外債務などのリスクを切り離したい買い手は事業譲渡を望むこともあります。
ただし、事業譲渡などで承継制度を使う場合は、あくまで「事前」の認可が必要で、承継予定日のかなり前に申請しなければなりません。受付期限は許可行政庁によって異なるため、スケジュールを組む段階で事前相談をしておくことが欠かせません。なお、相続の場合は死亡後30日以内に認可を申請します。
■買い手がすでに許可を持っている場合
「事業譲渡でも、買い手が許可を持っていれば大丈夫では」という質問をよくいただきます。売り手と同じ業種の許可を、同じ区分(一般/特定)で持っていれば、譲渡後の工事は買い手自身の許可で請け負えます。ただし、承継の認可を受けなければ、売り手の許可番号や経審の結果は引き継げません。公共工事の入札が絡む場合は、買い手が許可を持っていても認可を受ける意味があります。
注意したいのは次のような場合です。
①売り手にあって買い手にない業種がある場合、承継の認可か新規の許可が必要です。承継後のすべての業種について、買い手が技術者の配置などの要件を満たさなければなりません。
②同じ業種で一般と特定が食い違っている場合、一つの会社が同じ業種で両方の許可を持つことはできないため、事前にどちらかを廃業しなければ承継できません。
③一部の業種だけを承継することは認められていません。
④売り手の営業所を引き継ぐ場合は、営業所ごとの技術者の配置が必要です。他県の営業所が加われば、知事許可から大臣許可への切り替えが必要になることもあります。
また、事業譲渡では施工中の工事請負契約を移すのに発注者の承諾が必要です。
■最大の落とし穴は「人」の要件
建設業許可は、会社だけでなく「人」にも紐づいています。経営業務の管理責任者にあたる常勤役員等と、営業所技術者等(2024年12月に「専任技術者」から名称変更)です。
株式譲渡なら許可はそのまま、と安心していると、ここでつまずきます。売り手の社長が経営業務の管理責任者を兼ねていることは珍しくありません。クロージングと同時に社長が退任すると、要件を満たす人がいなくなり、許可そのものが維持できなくなるおそれがあります。ベテラン技術者の退職も同じです。
たとえば、社長が譲渡と同時に役員を退任し、後継の役員には経営経験の要件が足りなかった、というケースです。買い手は要件を満たす人材を急いで探さなければならず、M&Aが混乱から始まることになります。技術者が交代した場合も、原則として2週間以内に変更届を出す必要があります。
そのため、M&Aの交渉段階から、①後任となる人が要件を満たしているか、②売り手社長に役員や顧問としてどれだけの期間残ってもらうか、を契約条件として設計しておく必要があります。
■見落としやすい周辺の手続き
建設業許可以外にも、産業廃棄物収集運搬業の許可や解体工事業登録の扱いを確認する必要があります。特に解体工事業登録は、建設業許可のような承継の仕組みがなく、事業譲渡などでは新たに登録し直さなければなりません。
デューデリジェンスでは、決算変更届などの届出漏れがないか、経営業務の管理責任者や技術者が実際に常勤しているか、社会保険に加入しているかも確認します。届出の漏れがあると、承継手続きが進まないこともあります。
■価格交渉の前に「許可の継続性」を
建設業のM&Aでは、譲渡価格の交渉に目が向きがちです。しかし本当に大切なのは、引き継いだ翌日から同じように工事を受注できることです。スキーム、買い手の許可との組み合わせ、人の要件、周辺の許認可。これらを早い段階で確認しておくことで、事業がきちんと続く承継になります。