6月のコラム(https://mbp-japan.com/kanagawa/makeitwork01/column/5226321/)では、国税庁が非上場株式(取引相場のない株式)の相続税評価方法について有識者会議を立ち上げたことをご紹介しました。2027年度の税制改正に反映させ、2028年1月以降の相続から新ルールの適用を目指しているというものです。当時は第3回会議の段階で、「純資産価額方式に近づく可能性」を推測していました。その後の議論で、国税庁の考える新しい評価方法の姿がかなり具体的になってきました。
第5回会議で国税庁が見直し案を提示
8月20日の第5回会議で、国税庁は「これまでの議論を踏まえた見直しの方向性」として、次のような案を示しました。
・会社の規模(大・中・小会社)による区分と、類似業種比準方式を廃止する
・原則として「残余利益方式」という一つの方式で評価する
・純資産価額方式は、資産管理会社など一部の会社に限定する
・オペレーティングリースや直前期の役員退職金などによる利益操作、グループ会社を使った評価額の圧縮にも対応する
続く9月16日の第6回会議では、計算方法や試算結果まで示されました。議論は「見直すかどうか」から「どう設計するか」の段階に入っています。
残余利益方式とは
全体的な考え方としては、会社の簿価純資産に近年の収益力を加味し、最後に一定割合(しんしゃく率)を掛けて求めるものです。
(計算の流れ(イメージ))
法人税申告書の数値をもとに、簿価純資産と過去5年の平均利益を求めます。
平均利益が、株主が通常期待する利回り(還元率※1)を上回れば、その超過分の5年分を純資産に加算します。下回れば、不足分を差し引きます。
得られた金額にしんしゃく率(1以下を想定)を掛け、評価額とします。
評価が上下するかどうかは、黒字か赤字かではなく、自己資本利益率(ROE※2)が還元率を上回るかどうかで決まります。M&Aの年買法と同じく純資産と収益を使いますが、上乗せするのは期待を超えた利益の部分だけです。さらに1を上回らないしんしゃく率を掛けるため、多くの会社では評価額が純資産を下回る想定としています。
※1 還元率とは
還元率は、株主が会社に出資したお金に対して「通常これくらいは稼いでほしい」と期待する利回りのことで、株主資本コストとも呼ばれます。国税庁案第6回の試算では8%と仮定されています。算定式は「上場株式の平均期待収益率などを参考に、CAPM(資本資産価格モデル)で算定する案」で仮定としています。具体的な算定式や水準は今後の議論で決まります。
ROEが還元率を上回れば評価額は上乗せされ、下回れば差し引かれます。
※2 自己資本利益率(ROE)の求め方
ROEは、株主が会社に預けているお金(純資産)に対して、1年間でどれだけの利益を生み出したかを示す指標です。次の式で計算します。
ROE(%)= 税引後の当期純利益 ÷ 純資産(自己資本)× 100
詳しい(現在想定している)計算式や論点は、国税庁が公表している会議資料で確認できます(文末にリンクを掲載しています)。
中小企業へのインパクト
第6回会議では、国税庁が過去の申告から抽出した1,378社を対象に試算を示しています。純資産を100とした評価水準の中央値は次のとおりです。
・大会社:現行38.2 → 新方式55.8~63.8(上昇)
・中会社:現行53.4 → 51.7~59.2(ほぼ横ばい)
・小会社:現行63.8 → 44.2~50.5(下落)
ただし、これはあくまでも一定の仮定を置いた試算であり、確定した数字ではありません。
・還元率は「8%」と仮定した数字で、しんしゃく率も0.7~1.0の幅で示されているだけで、どちらも今後の議論としています
・子会社株式の修正などの個別調整は考慮されていません
・示されているのは中央値で、個々の会社の結果は資産や収益の状況によって大きく異なります
そのうえで全体の傾向として見ると、次のような会社は評価額が上がりやすくなります。
・類似業種比準方式で評価額を抑えられていた規模の大きめの会社
・業歴が長く純資産が厚い会社
・収益力の高い会社
一方、収益力の低い小規模な会社は、評価額が下がる可能性があります。
また、オペレーティングリースや役員退職金を使った株価引き下げ策は、効果が薄れる前提で考えておく必要がありそうです。
実際、株価がいくらになるかは、算定の考え方のほか「しんしゃく率」など数値の設定が大きな要素となります。この設定基準や見直しに関するしくみ設計なども、重要になってきます。
日本商工会議所・中小企業庁の意見
この案には、反対や慎重論も出ています。
日本商工会議所は事業承継の円滑な実現の視点から、反対している印象です。第6回会議に意見書を提出し、評価体系の抜本的な変更そのものに反対する立場を明確にしています。主な主張は次のとおりです。
・独自の試算では、個社によって評価額が2~5倍になるケースがある
・成長投資や資本の蓄積を抑える方向に働く
・通達の変更によって実質的な増税となる
経済産業省・中小企業庁も意見書を提出しています。業種や経営状況別に影響を詳細に試算・検証し、拙速に結論を出さず丁寧に議論すべきだという内容です。あわせて、「負担の問題は事業承継税制で手当てすればよい」という考え方に対しては、中堅企業は対象外であり、中小企業でも使える会社は限られているという実態を指摘しています。
国税庁と経済産業省の間で考え方の違いがある印象です。年末の税制改正大綱でどこまで盛り込まれるか、適用時期も含めて不透明さが増しています。
第3回会議で日本税理士会連合会が類似業種比準方式の課題を提起したように、判断基準が不透明であり現行の類似業種比準方式には、何らかの見直しが必要な状況は理解しやすいところです。
いずれにしろシンプルで透明性の高い、事業承継に大きなインパクトを与えない設計、またできれば「事業承継税制の使いやすい形への見直し」も併せて期待したいところです。
また、評価の仕組みを変えれば、事業承継の現場では納税資金の確保や承継計画の見直しに直結します。評価方法の合理性と、事業承継への配慮をどう両立させるか。評価と税負担を一体で議論することが欠かせないと考えます。
おわりに
評価額を大きく左右する論点は、まだ決まっていません。還元率やしんしゃく率の水準、純資産価額による上限(頭打ち)が残るかどうか、といった点です。それでも、評価の考え方の方向性はかなり見えてきました。
前回お伝えした「現在の評価額の把握」に加えて、次のような点を整理しておくことをお勧めします。
・過去5年の利益・純資産・配当の推移
・ROEの水準
・役員退職金やリース取引の有無
そのうえで、現行方式と新方式の両方で試算してみると、自社への影響が見えてきます。承継の時期や方法は税負担だけで決めるものではありませんが、判断材料を早めにそろえておくことが大切です。顧問税理士とも連携しながら、引き続き議論の行方を注視していきましょう。
参考資料(国税庁ホームページ)
・取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(各回の資料・議事要旨)
https://www.nta.go.jp/about/council/kenkyu.htm#nai-hyoka
・第5回 国税庁資料(見直しの方向性)
https://www.nta.go.jp/about/council/nai-hyoka/20260820/pdf/05shiryo_kabukaigi.pdf
・第6回 国税庁資料(残余利益方式の各論・試算)
https://www.nta.go.jp/about/council/nai-hyoka/20260916/pdf/06shiryo_kabukaigi.pdf
・第6回 委員提出意見書(日本商工会議所)
https://www.nta.go.jp/about/council/nai-hyoka/20260916/pdf/06ikensyo_kabukaigi.pdf
・第6回 オブザーバー等提出意見書(経済産業省・中小企業庁)
https://www.nta.go.jp/about/council/nai-hyoka/20260916/pdf/06obikensyo_kabukaigi.pdf