事業承継ブログ

2017年「事業承継問題・大廃業時代」の警鐘と現在 ー 今後の事業承継の考察
2026.08.22

2017年(平成29年)、経済産業省・中小企業庁は「事業承継問題・大廃業時代」という強い警鐘を鳴らしました。当時の推計では、全国約380万社の中小企業のうち、10年以内に70歳以上の引退時期を迎える経営者は約245万人、そのうち後継者が決まっていない企業は約127万社にのぼるとされました。そして、この問題を放置した場合、2025年までに累計約650万人の雇用が失われ、GDPにして約22兆円が失われる可能性があるという、かなり衝撃的な数字が示されたのです。

あれから約10年が経ち、実際の数字はどうなったでしょうか。
まず企業数そのものについては、中小企業庁の調査で2016年の約358万社から2021年には約337万社へと、5年間で約21万社(率にして約6%)の減少にとどまりました。さらに総務省が2025年12月に公表した最新の経済センサス‐基礎調査(2024年6月時点)では、全国の企業等数は約292万者となっています。調査対象の範囲が一部見直されており単純な横並び比較はできないものの、企業数の減少傾向自体は足元でも続いていることがうかがえます。それでも、当初懸念されたような数年単位での急激な「大廃業」には至っていません。後継者不在率についても、帝国データバンクの調査によれば2017年の66.5%をピークに、2025年には50.1%まで改善しています。この点だけを見れば、事業承継支援策には一定の効果があったと言えるでしょう。

一方で、雇用については逆に人手不足がむしろ深刻化し、あらゆる業種で採用難・人材逼迫が経営課題の上位に挙がる状況になっています。GDPについても、当初想定されたような明確な下押しインパクトが数字として現れたわけではありません。つまり「127万社が一斉に消える」という最悪シナリオは回避された一方で、問題の現れ方は当初の想定とは異なる形になったということです。

ここで見逃せないのが、事業承継が「1対1」ではなく「N対1」で進んだという構造の変化です。かつては、一つの会社に一人の後継者、というのが承継の基本形でした。しかし現在では、数十社、場合によっては百社を超える規模でM&Aを積み重ねる、いわゆる「ストロングバイヤー」と呼ばれる買い手企業の存在が目立つようになりました。調剤薬局、介護、建設、税理士・会計事務所、美容室など労働集約的な業種を中心に、一つの受け皿企業が地域の複数の企業を連続的に取り込んでいく「集約(コンソリデーション)」が進んだのです。

さらに、M&Aなど事業承継という形を取らずに廃業した会社であっても、その店舗跡地や設備、従業員が、結果としてナショナルブランドのチェーンに展開されていくケースも少なくありません。以前であれば、地方の駅前に行けば、その土地ならではの個性的な店構えが並んでいたものですが、今ではどの町に行っても同じような全国チェーンの看板が並ぶ、という光景をよく目にします。これはまさに、事業承継が個別の「継ぐ・継がない」の問題ではなく、地域経済全体の担い手が集約されていくプロセスであったことの象徴だと言えるでしょう。

このように捉えると、「大廃業時代は回避された」という評価だけでは不十分で、「事業承継の姿そのものが変わった」と理解する方が実態に近いと思います。企業の数字上の減少は緩やかでも、経営の多様性や地域固有の商いの姿は、この10年で確実に失われつつあります。

では、これからの事業承継はどうあるべきでしょうか。経営者が受け身で「継がせる相手がいないからM&A」と考えるのではなく、屋号や雇用条件など譲れない点を早めに整理し、専門家とともに複数の選択肢を比較検討しておくべきだ、という個社レベルの基本はこれまでも繰り返し語られてきた通りです。

しかし、ここまで見てきた「N対1」の集約という構造を踏まえるなら、むしろ問われているのは、個社ごとの対応という発想そのものの限界です。同じ地域の商店街や産業集積地では、複数の企業が同時期に後継者問題を抱えていることが珍しくなく、業界という単位で見ても、サプライチェーンを支える部品メーカーや協力会社が一斉に高齢化・後継者不在に直面するケースが増えています。一社一社がばらばらに承継を模索するのではなく、「この地域として」「この業界として」何を残し、どう繋いでいくかという発想が必要になってきているのです。

その担い手として期待されるのが、地域や各業界のほか地域のリーディングカンパニーや各業界の中核企業です。地元経済に根を張る有力企業や業界を牽引する企業が、単なる一買い手にとどまらず、取引先や同業者の事業承継を積極的に支援し、時には自ら受け皿となることで、地域の雇用や産業基盤、業界内のサプライチェーンの連続性を守っていく。こうした地域・業界ぐるみでの事業承継への取り組みが、これからますます重要になっていくように思います。

事業承継は経営者お一人で抱え込むにはあまりに重いテーマです。地域や業界の大きな流れを踏まえながら、一件一件に丁寧に向き合っていく。それが私のこれからの役割と考えています。