事業承継・M&A補助金の16次公募は、2026年10月2日から申請受付が始まっており、締切は11月6日(金)17時です。先日のコラム「事業承継・M&A補助金の概要(15次公募までの傾向を踏まえて)」では、4つの申請枠の全体像と採択の傾向をご紹介しました。今回はそのうち、M&Aの買い手・売り手がFA・仲介業者や士業などの専門家を活用する際の費用を支援する「専門家活用枠」に絞り、公募要領を読み込んだうえで、申請前に押さえておきたい実務上のポイントを整理します。
本枠は、M&Aで株式や事業を譲り受ける予定の中小企業を支援する「買い手支援類型」と、譲り渡す予定の中小企業を支援する「売り手支援類型」が中心です(このほか、100億企業特例と小規模売り手支援類型も設けられています)。対象となる経費は、FA・仲介費用、デュー・ディリジェンス(DD)費用、弁護士による契約書レビュー費用、M&Aマッチングサイトの利用料、表明保証保険料などです。
補助率は、買い手が2/3、売り手が原則1/2です。売り手は、物価高等による営業利益率の低下や直近期の赤字といった要件を満たせば2/3になります。補助上限額は600万円で、DDを実施する場合は200万円が上乗せされます。また、廃業・再チャレンジ枠と併用して廃業費を申請する場合は、さらに300万円が加わります。補助事業期間は、2027年1月下旬から14か月以内が想定されています。
補助の対象となるのは、交付決定後に専門家と契約し、補助事業期間内に支払いまで完了した経費です。成功報酬であれば、専門家との契約、相手方との最終契約、クロージング、報酬の支払いまでを期間内に終える必要があります。すでにFA・仲介業者と契約している場合、その契約に基づく報酬は対象になりません。
期間内にクロージングできなかった場合は、上限が300万円に下がり、対象経費も原則として、買い手はDD費用のみ、売り手はDD費用とマッチングサイトの利用料のみとなります。成功報酬の支払時期やテール条項の内容など、FA・仲介契約の条件を補助事業のスケジュールに合わせて設計しておくことが重要です。
買い手支援類型では、DD費用を補助対象に計上するかどうかにかかわらず、DDの実施そのものが要件とされています。申請フォームでは自社での対応も選択できますが、税務DDや法務DDは外部の士業への依頼が原則とされています。また、クロージングに至らなかった場合に補助対象として残るのは原則DD費用のみです。不成約のリスクに備える意味でも、DDは外部の専門家に依頼し、費用を計上しておくことをお勧めします。
委託費や外注費などは、1件50万円未満であっても原則として2者以上の相見積が必要で、最低価格を提示した先を選ぶことが求められます。例外の一つがFA・仲介費用で、見積額がレーマン表で計算した額以下であれば、関与専門家選定理由書に想定譲渡額とその根拠を詳しく記載することで相見積が不要になります。ただし、見積に最低報酬額の記載がある場合は、この例外は使えません。
また、FA・仲介費用が対象となるのは「M&A支援機関登録制度」に登録された業者に限られます。依頼を検討している業者が登録されているか、事前に確認しておきましょう。
申請時点で相手先や依頼する専門家が決まっていないことは珍しくなく、申請フォームでも多くの項目で「未定」と記載することが認められています。一方で、書面審査では「経営資源引継ぎの計画が補助事業期間内に適切に取り組まれるか」が見られます。相手先が決まっていなくても、想定する規模や業種、探し方、スケジュールなど、書ける範囲で方針を示すことが大切です。
なお、経費の金額欄は数字の入力が必須です。FA・仲介費用は相手先の規模によって変わりますが、交付決定額を後から増やすことは一般にできないため、想定するレンジの上限側で、根拠を示して計上するのが現実的です。
補助対象となる支払いは、補助事業者名義の口座からの振込か、クレジットカードの1回払いに限られます。売り手支援類型の株式譲渡では、オーナー株主と対象会社のどちらが費用を負担しても対象となるよう、株主との共同申請が原則とされています。また、申請書類の作成を有償で代行できるのは行政書士に限られ、委任する場合は行政書士証票の写しと委任契約書の提出が必要です。
専門家活用枠は、M&Aにかかる専門家費用の負担を大きく軽減できる制度です。ただし、交付決定を受けてからFA・仲介業者と契約し、そこから相手先を探して、補助事業期間内にクロージングと専門家への支払いまでを終える必要があります。M&Aの進み具合は相手方の事情にも左右されるため、実務上はスケジュールを合わせにくく、使いにくさがあるのも事実です。それでも、まだFA・仲介業者と契約しておらず、相手先の候補にある程度目星がついている事業者にとっては、期間内の成約を見通しやすく、メリットの大きい制度ですので、検討されることをお勧めします。
また、補助の対象になるかどうかは、契約の時期、支払いの方法、相見積の取り方など、M&Aの進め方そのものに左右されます。申請書を書く段階だけでなく、FA・仲介業者との契約条件を決める段階から補助金のルールを意識しておくことが、採択後に「対象外」とならないための最大のポイントといえます。
16次公募の締切までは残り3週間ほどです。申請に必要なGビズIDプライムの取得には1〜3週間かかるため、未取得の方はお早めに手続きを進めてください。自社のM&Aが対象になるか、どの類型で申請すべきか判断に迷われる場合は、お気軽にご相談ください。