2026年4月、国税庁は非上場株式(取引相場のない株式)の相続税評価方法について、有識者会議を立ち上げました。6月4日には第三回目の報告がされています。報道によれば、2027年度の税制改正に反映させ、2028年1月以降の相続から新しいルールを適用することを目指しているとされています。現行の評価方法が定められたのは1964年。実現すれば、約60年ぶりの大改正となります。
中小企業の経営者にとって、自社株の評価額は事業承継の際の税負担に直結する重要な要素です。今回の見直しは「まだ先の話」と感じられるかもしれませんが、実際の相続・承継のタイミングを考えると、今から知っておくべき情報だと言えます。顧問税理士のいる経営者は連携をとっていくことも有効になってきます。
なぜ見直されるのか
現在、非上場株式の評価には主に「純資産価額方式」と「類似業種比準方式」という2つの方法が使われており、会社の規模や状況によって「純資産価額方式」や「類似業種比準併用方式」(純資と類似の併用)などが(あるいは選択で)決まります。
この2つの方式は、同じ会社であっても評価額に大きな差が出ることがあると指摘されています。国税庁は、この差を利用して相続税の負担を軽くするケースが目立ってきたことを問題視しており、適正な課税を目的に見直しを進める方針とのことです。
経営者にとっての影響
見直しの方向性としては、2つの方式の評価額の差を縮める、つまり純資産価額方式に近づける形になる可能性が推測されています。
これは、「類似業種比準方式」を使うことで株価を低く抑えられた会社にとっては、評価額が上昇し、相続税・贈与税の負担が増える可能性があるということを意味します。一方で、すべての会社が一律に増税となるわけではなく、個社の資産構成や株主構成によって影響は大きく異なります。
なお、議論はまだ初期段階であり、明確な方向は見えていないように感じます。最終的な制度の形は今後の検討会の進行や2027年度税制改正の議論を経て確定します。現時点では「方向性」として受け止め、過度に不安になる必要はないと思います。
今からできる4つの備え
制度の詳細が固まる前の今こそ、次のような準備を進めておくことをお勧めします。
・自社株の現在の評価額を確認する
まずは現状、自社の株価がどの方式で、どの程度の金額になっているかを把握しておきましょう。これが今後の変化を測る「基準点」になります。
・評価額が上昇した場合のシミュレーションを行う
特に類似業種比準方式の割合が多い会社は、純資産価額方式に近づいた場合にどの程度評価額が上がりうるかを試算し、相続税・贈与税の納税資金についても余裕を持って検討しておくことが有効です。
・事業承継税制(特例措置)の活用期限を確認する
事業承継税制の特例措置には、先代経営者からの贈与・相続に関する期限が設けられています。この期限は少しずつ延長されています。特に株価が高くなっている経営者が対象ですが、新ルールとの組み合わせも視野に入れ、適用のタイミングを早めに検討することをお勧めします。
・承継のスケジュールを前倒しで検討する
評価額が上昇する前、つまり現行ルールが適用されているうちに暦年贈与や相続時精算課税などを使って承継を進めるという選択肢も、有力な対応策となります。ただし、これは税負担だけでなく、後継者の準備状況や経営の安定性も含めて総合的に判断すべき事項です。
おわりに
第三回有識者会議での公開された資料を見る限りでは、
・「類似業種比準方式」が「中小企業の円滑な事業承継」に果たしてきた役割は重要であり不可欠であるといった日本商工会議所の意見
・「類似業種比準方式」に関する課題提起や事業承継税制との一体の検討が必要との日本税理士会連合会の意見
などもあり、今後の着地がまだ見えない部分はあります。
今回の見直しは相続税の公平性を高めることを目的としたものですが、結果として中小企業の事業承継に少なからぬ影響を与える可能性があります。今後、国税庁の検討会の議論の進捗を踏まえ、最新情報を確認していく必要があります。