コラム「事業承継は「目的」ではなく「手段」―大切な視点として感じること」で記載させていただいたとおり、事業承継に関するご相談を受ける中で「事業承継は手段であって目的ではない」ことに気づかされます。
その一つが「創業」を目的としたM&Aでの譲受です。
「創業したい」と考えるとき、多くの人は「ゼロから会社をつくる」姿を思い浮かべます。しかし、創業の形は必ずしもゼロイチだけではありません。既に存在する企業を引き継ぎ、新たな価値を加えて発展させる──いわば“第二創業”の形であるM&Aも、立派な「創業の手段」です。
M&Aによる創業は、設備・従業員・顧客・仕入れ先など、これまで積み上げられた経営資源をそのまま引き継げる点に大きな魅力があります。
ゼロからの創業では、資金調達、商品開発、顧客開拓など、軌道に乗せるまでに多くの失敗を積み重ねながら数年を要するのが一般的です。しかし、M&Aであれば、すでに存在する事業基盤をもとに自らのアイデアや経営手腕を発揮できるため、早期の安定と成長が見込めます。
特に近年は、後継者不在に悩む中小企業が全国で増加しており、2024年時点で日本政策金融公庫や事業承継・引継ぎ支援センターが関与した第三者承継(M&A)件数は2,000件を超え、過去最高を記録しています。創業希望者にとっては、すぐに実践できる「リアルな経営の現場」に入るチャンスが広がっているのです。
現在、全国の事業承継・引継ぎ支援センターが取り組んでいる「後継者人材バンク」の仕組みでは、創業希望者と後継者不在企業をマッチングする仕組みがあります。
さらに、オンラインのM&Aプラットフォーム(トランビ、ビズリーチ・サクシードなど)の普及により、個人でも手軽に中小企業の譲受先を探すことが可能になりました。
創業者が「どの業種で、どんな地域で、どんな規模の会社を引き継ぐか」を選択できる時代に入り、創業=ゼロから、という固定観念が少しずつ変わりつつあります。
日本では長年、「事業承継=終わり」「M&A=売却」といったネガティブな印象がありました。
しかし、実際には事業承継は「未来を引き継ぐ」行為であり、M&Aは「創業を支える手段」です。
創業志望者が経験豊富な人材や確立された取引先を持つ企業を引き継ぐことは、単にリスクを減らすだけでなく、地域経済や雇用を守る社会的意義もあります。
廃業を防ぎ、地域の技術やサービスを次世代へつなげること。これも「新しい創業」のかたちとなっています。
事業や法人が柔軟に移転・拡張できる仕組みが普及し、事業のポータビリティが容易になっている現代では、「事業承継は目的ではなく手段」という考え方がますます重要になります。
M&Aを通じた創業には、
・設備・顧客・ノウハウなど既存資源の活用
・創業初期のリスク軽減
・地域経済への貢献
というメリットがあります。
創業を考える際に「ゼロから始める」だけでなく、「誰かの想いを引き継ぎ、次の時代を創る」ことも大きな選択肢になります。
M&Aという手段が、新しいスタートラインになることになります。