こうした観点から、中小企業庁は「事業承継・M&A補助金」において、PMI推進枠を新設し、中小企業がM&A後の統合プロセスに積極的に取り組むことを後押ししています。本稿では、第12次公募におけるPMI推進枠の概要を解説し、とくに 「PMI専門家活用類型」 と 「事業統合投資類型」 の2つの類型について整理します。
PMI推進枠とは?
PMI推進枠は、中小企業がM&Aを契機に行う「経営統合の取り組み」に要する費用を支援するものです。事業の引継ぎ後に発生するさまざまな課題――経営戦略の再構築、人材・組織の統合、システム・業務プロセスの調整など――を計画的に進めることで、統合効果を最大化し、生産性の向上や地域経済の活性化を図ることが目的です。
この枠組みの中で、補助金対象となる類型は次の2種類です。
① PMI専門家活用類型
「PMI専門家活用類型」は、中小企業がM&Aによって株式や経営資源を譲り受けた、あるいは譲り受ける予定であり、その後のPMIを専門家とともに進める場合に活用できる制度です。
申請の形態は以下の二通りがあります。
単独申請:すでにM&Aの最終契約が締結され、クロージングが完了している企業が対象。
同時申請:M&Aをこれから実施予定であり、買い手支援類型(Ⅰ型)と同時に申請するケース。
この類型では、専門家(M&Aアドバイザー、会計士、弁護士など)の知見を活かすことで、統合プロセスを円滑に進められる点が特徴です。外部の目線を取り入れることで、組織文化の融合や経営課題の抽出など、統合後に発生しがちな問題を予防できます。
② 事業統合投資類型
一方の「事業統合投資類型」は、M&A後に必要となる具体的な設備投資やシステム導入、業務改善のための支出を支援するものです。
例えば、経営統合を進める中でのITシステム統合、新規製造設備の導入、人材育成のための研修費用など、統合効果を最大化するための投資が対象となります。専門家活用ではなく、自社の統合プロジェクトを「投資」という形で進める企業にとって有効です。
この類型を利用できるのは、M&Aが既にクロージングしているケースに限られ、公募申請時点で最終契約が締結済みであり、クロージング日から1年以内であることが要件とされています。
デュー・ディリジェンス(DD)の実施が必須
いずれの類型においても重要な前提となるのが、M&A成立前に実施されるデュー・ディリジェンス(DD)です。DDは、対象企業の財務・法務・事業内容・人材状況などを多角的に調査し、リスクやシナジーを見極めるプロセスです。
PMI推進枠では、DDが実施されていないM&Aは補助対象外と明記されています。これは、統合の前提条件としてリスクを正しく把握しておくことが不可欠であり、DDを経てこそ、補助金によるPMI支援が効果的に機能するためです。
事業実施期間について
補助事業の実施期間は、交付決定日から 12か月以内 が基本となります。この期間内に、PMIに必要な取組や投資を完了し、実績報告を提出することが求められます。
つまり、「M&Aの成立から統合プロセス完了までを1年以内に収める」という前提で計画を立てることが必要です。中小企業にとってはタイトなスケジュールとなる可能性があるため、申請段階から具体的なロードマップを描き、スムーズに進められる体制を整えることが重要です。
まとめ
事業承継・M&A補助金 第12次公募に新設された「PMI推進枠」は、単なるM&Aの成立ではなく、その後の経営統合プロセスを重視する制度です。
PMI専門家活用類型:専門家の支援を得て統合プロセスを進める
事業統合投資類型:設備投資やシステム導入など実際の投資を支援
どちらの類型でも、DDの実施が必須であり、さらに 補助事業期間は12か月以内 という制約があります。
PMIは中小企業にとって負担も大きい一方、成功すれば企業価値を飛躍的に高めるチャンスです。本補助金を活用し、計画的かつ着実な統合プロセスを実現することで、M&Aの本当の成果を掴み取ることができると考えられます。