今回ご紹介する「事業承継・M&A補助金(第12次公募)専門家活用枠」は、M&Aの実行に必要な専門家活用費用の一部を補助する制度です。FA(ファイナンシャルアドバイザー)やM&A仲介業者との契約、基本合意、最終契約、成功報酬支払いまでの一連の流れが補助対象となります。
制度の概要
本補助金は「買い手支援類型」と「売り手支援類型」の2類型に分かれ、いずれもM&A支援機関登録制度に登録されたFA・M&A仲介業者との契約が条件です。補助率は、買い手支援類型で2/3以内(上限600万円+条件により加算)、売り手支援類型は要件により1/2または2/3以内となります。
補助対象となる経費には、FA・仲介業者への着手金・中間報酬・成功報酬、デュー・ディリジェンス費用、マッチングサイト利用料などが含まれます。
補助事業期間と重要なスケジュール
今回の第12次公募では、補助事業期間は2025年10月(下旬予定)から12か月以内と定められています。この期間内に以下のすべてを行う必要があります。
専門家契約の締結
FA・M&A仲介費用に係る委託契約書を締結。M&A支援機関登録制度に登録された業者が対象。
基本合意書の締結(中間報酬支払い時)
交渉相手との基本合意書を締結。
最終契約書の締結(成功報酬支払い時)
最終契約書を交わし、クロージング(株式・事業の引渡しと代金決済)まで完了。
専門家への成功報酬の支払い
このように、補助事業期間内に「専門家契約→交渉→売手・買手最終契約→クロージング→専門家報酬支払い」までを完結させる必要があります。
実務上の留意点
補助事業期間の制約は非常に重要です。実務的には、専門家契約が遅れると買い手・売り手双方の相手探しが難しくなり、最終契約の見通しも立ちにくくなるのが現実です。
また、M&Aは相手選定から条件交渉、デュー・ディリジェンス、契約締結まで数か月〜1年以上かかる場合があります。補助期間12か月は一見長く感じられますが、着手からクロージングまでの全工程をこの期間に収めるには、採択後すぐに動き出す必要があります。
そのため、申請前の段階から次の準備を進めておくことが推奨されます。
専門家候補の選定と事前打合せ
登録FA・仲介業者の中から、自社の業種や規模、地域性に合った専門家を選び、契約条件やスケジュール感をすり合わせておく。
相手探しの方向性明確化
譲渡(売り手)側は譲渡条件や希望譲受先のタイプを整理し、譲受(買い手)側は求める事業シナジーや予算枠を明確化しておく。
必要資料の早期準備
財務諸表、契約書、資産一覧、従業員情報など、デュー・ディリジェンスで求められる情報を整理しておく。
成功報酬支払いまで行う必要がある理由
今回の公募要領では、補助対象経費として成功報酬が認められるのは「最終契約書締結+クロージング完了」が条件とされています。これは単に契約を交わすだけでなく、実際に経営資源の移転まで完了していることを担保するためです。補助金を活用するにはプロセスの進行状況と支払い時期の管理が欠かせません。
専門家と進めるべき理由
M&Aの過程では、企業価値評価、条件交渉、契約書作成、法務・税務・労務のリスクチェックなど、多岐にわたる専門知識が求められます。経験豊富なFAや仲介業者は、交渉の進行管理や買い手・売り手間の利害調整、スケジュールの最適化を行い、スムーズなクロージングをサポートします。
また、補助金の要件やスケジュールを熟知している専門家であれば、補助対象経費の証憑管理や実績報告にも的確に対応できます。
まとめ
第12次公募の「専門家活用枠」は、M&Aにおける専門家費用を大きく軽減できる貴重な制度です。しかし、2025年10月下旬から12か月以内に「専門家契約→基本合意→最終契約→クロージング→成功報酬支払い」までを完結させる必要があるため、時間的余裕は決して大きくありません。
申請前から専門家と十分に相談し、見通しを立てたうえで計画的に取り組むことが成功の鍵となります。制度を上手に活用し、円滑かつ着実な事業承継・M&Aを実現しましょう。